産業保健師インタビュー②
従業員の意識や行動、職場全体が変化していくことにやりがいを感じます。
産業保健師 古岩井様
国立大学医学部看護学科卒業後、総合病院や企業、財団法人などで看護師・保健師として勤務。仕事をしながら妊娠・出産・子育てや家族の看病と介護も経験。アポプラスキャリアの紹介を通じ、従業員の健康管理を積極的に行うミツイワ株式会社で産業保健師として従事。
保健師の仕事は企業の特色や所属する部署、関わる従業員との関係等、様々大変なことがあります。
しかし、従業員の意識や行動が変わっていくことや、関わったことにより職場全体が変化していくことに興味があり、やりがいを感じます。
現在の職場について
― 現在の職場について教えてください。
現職では一人保健師職場であり、これから健康経営を企画・運営していく上で専門職として責任のある立場であり、多くの企業で培ってきた保健師としての経験が活かせる職場であると感じています。健康管理室長を中心に健康管理室員や所属の上長のサポート体制が確立しつつあり、組織として健康管理に意欲的な企業に成長しており、このような企業に出会えたことがうれしいです。
これまでの多様な経験
― これまでの産業保健師としての経歴を教えてください。
私自身、履歴書1枚では書ききれないほどの職歴があり、病院や業種の違う様々な企業、公益法人で保健師として働いてきました。都内の総合病院で外科と内科と救急病棟が揃う院内最大の病棟の看護師から始まり、中央省庁の傘下にある外郭団体の本部の保健師、従業員数が数万名の大企業から、初めてホワイト500を取得できた企業、従業員の健康管理を初めて取り組む企業など、これまで9社で勤務してきました。
― 9社という役割が様々な中での勤務は、大変ではなかったですか。
本当に大変でしたね。ただ企業規模や自分の役割が様々な多くの組織の中で保健師として従事できたのも、初めての勤務である病院での経験が大きいと実感しております。当時、所属している病棟が外科・内科・救急病床の混合病棟で、担当は主に外科系の患者さんだったのですが、救急病棟があるので、どんな患者さんが来るか分からない。術後ベットもあったので、呼吸器外科や脳外科、整形外科等の手術後の患者さんを看護したり、他の病棟にヘルプにいったりと、大きな病院だけに、様々な科目で急性期から慢性期、ターミナルケアの方まで多種多様な看護を経験してきました。
ここでは1年間だけだったのですが、命に関わり、命と向き合う患者さんを看るという臨床経験の厳しさがありました。相当忙しく、厳しい病棟でしたので、同期とは泣きながら頑張って励ましあってその日を暮らすような生活だったのですが、ここでの1年は、3年分の経験を得られたと思います。
― 本当に大変な経験をされたんですね。
そうですね。生活習慣病や糖尿病、癌や難病、免疫疾患などの方々も看てきたので、保健師として、日頃から健康管理を行う産業保健の重要性を考えるきっかけになりました。またこの病院での勤務経験がその後の保健師活動にとても役立っていると思います。
転職するきっかけ
― ミツイワ株式会社へ転職するきっかけは、なんだったのでしょうか。
これまで多くの企業で健康管理業務を行ってきました。医療スタッフのチームの一員としての仕事、一人保健師として、健康管理の立ち上げ業務、多くの保健師を支える仕事や教育の仕事もありました。ある程度の経験を積んだ時点で、転職の機会がまた訪れて、自分がしたいことを改めて考えてみたところ、一つの企業の健康管理を今までの経験を活かして一からがっちり立ち上げたいと思いました。そこでミツイワ株式会社と出会いました。
私が採用される前、ミツイワ株式会社は、健康診断の結果で有所見率が高く、全従業員の半数を超えていました。このことがきっかけで、真っ先に社長が「健康経営宣言」を打ち出し、健康管理体制を整えようとしていました。
当時の課題のひとつだった労務管理の人事部と健康管理を行う総務部の縦割り組織を、役割にとらわれず従業員の健康管理をしっかり行っていくことを目的に、先ずは健康管理室という独立部署を立ち上げたそうです。長年、担当して下さっている産業医の先生と現在の健康管理室長と2名でメンタル面・フィジカル面を対応しており、ともに細かくやり取りしていたそうですが、さらに健康経営を企画・運営する上で、産業保健という専門的な知見が必要であると考え、経験のある保健師の採用に至ったそうです。採用の要件として、健康管理室の立ち上げ経験、マネジメント力もある保健師を探していたようです。
― これまでの経験が評価されたんですね。
そうだと思います。他に受けた会社からは、職務経歴がたくさんあるので「長続きしないですね」や「なぜこんなに在職年数が短いんですか」とよく言われました。しかし、ミツイワ株式会社は、逆にこれまでの多くの企業で培ってきた立ち上げの経験とメンタル面・フィジカル面両方に対応できる知見を評価していただけたようです。職務経歴書をよく見ないで、転職回数や在籍年数だけで「長続きしない保健師だ」とレッテルを貼られることが多い中、しっかり経験で得た事を汲み取って頂けたと思います。
実際の仕事内容
― ミツイワ株式会社で実際、働いてみていかがですか。
大変ですがとてもやりがいや充実感を感じます。従業員の健康のために、社長から健康経営宣言があり、トップダウンで会社全体で健康管理を行う姿勢であり、健康管理の企画運営の決定が非常に早いです。また、健康管理室長が所属長や各拠点長、さらに上層部との交渉を取り仕切り、保健師が企画立案した業務の中で、事務的な作業を全て所属室員へ割り当てて指示を出すことにより、保健師がより専門的な領域に特化して仕事に従事する環境ができています。多くの企業で保健師と事務スタッフの仕事の領分が不透明なため、無駄な仕事が発生したり、連携不足で重要な仕事が抜け落ちていることも多いと思っていましたが、ミツイワでは、健康管理室内できっちりと業務分担ができており、短期間で多くの施策を実施し、運用ができているのだと実感しております。今まで事務作業に割いていた時間を保健師としてより効果的な健康管理を考え実施する時間になり、従業員の健康状態をより詳細に知るための施策ができ、従業員の行動変容につながりました。
― 具体的にどういった行動変容でしょうか。
これまでミツイワ株式会社では、健康診断結果は各従業員の情報としてありましたが、生活習慣に関する情報がありませんでした。エレベーターや執務室で従業員を観察すると、コンビニ弁当や菓子パン、カップラーメンを食べる人が多いな、と感じていたため、「実際にどんな生活状況なのか調べたい」と提案し、食事や飲酒、喫煙、運動など80項目以上について調べる【ミツイワ健康調査】を作成し、全従業員に向けて実施しました。さらに、健診結果とクロス集計をして【ミツイワ健康白書】を作成しました。結果は、予想通り全従業員の50%以上が肥満であり、8割が有所見者であることが解りました。外食やコンビニの利用率も高く、運動不足であることも解りました。また睡眠状態が悪いのも特徴でした。
これを経営会議(役員会)で発表し、健康教育を全従業員にすることになりました。普通だったら理想的な食生活や適度な運動するように促すのが正解なのかもしれないのですが、ただ教科書通りの健康教育をやっても、営業や管理部門、技術部門など業種ごとに働き方も違う上、年齢層も平均44.8歳と逆ピラミッド型なので、うまくいくわけがない。なので、業種ごとの健康傾向を示した上で健康教育をすることにしました。各業種ごとに違う傾向あったので、特徴的な内容を教育に盛り込んだのが、インパクトがあったようです。
また、全社共通の健康教育は実行可能なことを内容に盛り込みました。
例えば、朝食は生活リズムに重要であり、タンパク質と糖質の両方を摂取するのが望ましいので、食べる習慣がない人はカフェラテでも良いですよと。コンビニで食事を買うときは、主食・主菜・副菜の組み合わせを選びましょうと。飲酒については、飲み方やおつまみの工夫を話したり、部署や従業員の特性をきちんと捉えて、原因を可視化して理解を促した上で実行可能な対策案を提示したのが、行動変容に繋がっただと思います。
― 一人ではなかなか難しいこともあったのではないですか。
過去に一人保健師で立ち上げ業務を行ったり、多くの保健師の一員として健康管理業務に携わってきましたが、事務スタッフと医療スタッフとで意見やそもそもの仕事の姿勢や考え方において対立することが多く、施策の立案から実施までスムーズにうまく進めることがなかなか出来ない事が多いと感じていました。また医療スタッフ間での仲たがいも多く、人間関係が原因でやめる保健師さんも多いのが事実だと感じています。しかし、ミツイワでは、健康管理室の室長が、保健師の専門性に敬意を払っており、会社のマネージャー職としての視点を持つように注意を促しながらも保健師の視点の意見を真摯に聞き、室員の事務スタッフの得意領域を充分に活かす視点で、率先して業務調整を実行し、会社にとっていいことは、室員の意見を全部吸い上げ、トップダウンで施策に落とし込む形をとっています。従業員の健康管理をする理想の形だと本当に思います。また、健康管理施策を行うにあたり、資料作成などの事務作業も、保健師が担当することも多いのですが、室長は「これは、保健師にしかできない業務なのか?」をつきつめて考えて下さるので、上位クラスへのプレゼン資料は室長が対応し、規定関連は人事との兼務の室員へ、健康保険組合関連や健診データ関連は医療事務を持っている室員へと、采配を取ってくれているので、保健師としての専門的な業務に専念できています。
健康管理室長とは、社内の健康問題の課題から解決案まで、納得がいくまで話し合います。基本的な方向性、「『会社にとって良いこと』『今の会社にできること』を実施する」ことは、入社当時から意見が一致していたので、そのあとの「具体的な方法」や「具体的な実施フロー」はある程度方向性を固めて、室員にさらに意見を聞いて、担当を分けて実施する。一見、簡単に思えて簡単にはいかなかったことが、室長や室員と意見が合致していたので、非常にうれしかったです。
― そうした保健師の活動の中で困ったことはなかったですか。
今は特にありません。ただ、過去の経験からすると、企業で産業保健を取り組む中では、その企業ごとに出来ること、出来ないことが出てきます。法令遵守は当たり前ですが、新たな施策には予算が必要だったり、予算を獲得するには費用対効果を求められるところ、効果が見えなかったりで、社内理解が得られないことが多々あります。こうした状況を理解して、「どうして、こんなことも解らないの?こんな会社では仕事をやってられない」と感情的になって「ダメだ」と、割り切ってしまうのではなく、「今できることは何だろうか。『会社と従業員のためになるためには』必要最低限、何ができるのか」ということを考えることが重要だと思います。そして、それこそ、健康経営を目指す会社から保健師として求められる重要なポイントなのだと思います。
保健師としてのやりがい
― 保健師での活動を通して一番、良かったことはありますか。
体調不良から、休業・復職に関わった社員が各フロアで元気に働いているのを見ると「本当によかったな」と嬉しくなります。ICTサービスの会社なので、勤務も不規則なため、健康面で辞めてしまう方もいらっしゃいます。スムーズに復職できるよう、何か工夫できないか、仕組みを導入できないかを考えていました。
― どんなことを工夫されたのですか。
まずは、主治医の先生から産業医への親書である「診療情報提供書」を導入しました。この親書で、病気については、専門医である主治医の見解を書面で残すことで、産業医のリスク分散ができるようになりました。また、産業医の先生がいらっしゃる回数は限られるので、そのスケジュールに合わせ、面談予定のポイントを押さえた事前情報を準備しました。私は幸いなことに、病院での臨床経験あったので、その従業員の病気、治療の段階など、解らない情報を調べ、そして、室長を通して、現場の上司との情報交換や仕事内容・所属従業員の情報を得た上で、産業医面談に同席することで、産業医が就業判定をする上で、重要なポイントである、従業員の仕事内容や仕事の特性を産業医に共有できていたことが大きいと思います。また保健師は、産業医の先生と従業員との面談の際の翻訳者のような役割を果たすと思っています。産業医がお話する医学的な事で分かりにくいことを従業員に解りやすく説明したり、産業医に従業員の仕事の内容を説明したり、産業医・従業員が円滑に面談ができるようにするための黒子に徹するようにしています。最近では、体調不良の裏にハラスメント要素が関わっていた場合も増えてきました。
― 従業員とのコミュニケーションも重要視されているのですか。
もちろん、そうです。年代や職場が様々なので、その従業員に伝わるように専門的な用語は使わないとか、従業員との会話が弾むように、視野を広げられるように心がけています。専門誌を読むよりは、ニュース雑誌や漫画雑誌、新書等を広く目を通すようにしています。人と接するためには、共通の話題や観点を沢山持つことが必要だと感じます。もちろん、自分の視野を広めるためにも役立ちます。もし部下で保健師さんを持つなら、「保健雑誌もいいですけど、プライベートではそれ以外も色々と触れてきてね」と指導するかもしれないですね。
あとは会社の方針でもあるのですが、全国にある各拠点に月1回、面談しに出張しています。
直接現場に行く。全国の各拠点を室長と一緒に回って、従業員と対面で話をします。すると、そこでふだん言えない部門や拠点の問題点や人間関係などざっくばらんに話してくれます。そして、面談後に、拠点の問題点や従業員の意見を上司の方にも共有することで、信頼関係と協力体制を築きいつでも健康管理室に相談できるような状況を作るようにしています。
あとは私自身の信条といいますか、気を付けていることなのですが、チャットグループなどの社内のコミュニティに属さないようにしています。ある特有のコミュニティに入ると、変なコミュニティ特有の情報と先入観が入ってきます。そのまま面談に臨むと、固定概念が入り込んで客観視できず、どうしても面談がうまくいきません。冷静に判断ができるように、面談の前情報は、所属と年齢くらいに留め、自分の眼と耳と雰囲気で確かめながら面談して次につなげるように心がけています。
今後について
― 今後、取り組んでいきたいことはありますか。
現在、従業員の8割は、何らかの症状をもっています。これを徹底的に減らす。まずは重篤者の閾値を産業医の先生と決め、この人たちに「早く受診して治療を受けないと命に影響がある」ことを警告するとともに、結果報告まで頂いて、最後の最後まで周知徹底することをしています。
昨年度より、その一歩手前の「要受診・要精密検査」の判定の従業員にも受診勧奨とセルフケア支援書の送付を行っており、受診の報告をいただいております。会社のマンパワーは限られているため限界があります。そこで、思いついたのが健康保険組合に義務化されている特定保健指導を活用することです。メタボの従業員には効率的かつ効果的な良い施策だと思い、室長と東京電機健康保険組合に行き、連携を深めることにしました。健保との連携、それぞれの施策が軌道にのるのはまだまだですが、根気強く従業員に「健康経営」を啓蒙していき、健康な会社にしていきたいですね。
健康管理室 室長 松波様より一言
保健師としての経験豊富な古岩井さんに来てもらって、本当に助かっています。会社によって従業員の健康管理に対する考えや施策が様々だと思いますが、当社での健康管理に対する課題を解決できる保健師さんに来ていただいたと思います。まだ立ち上げまもない時から、一緒になって活動してきましたが、困難に立ち向かい、自発的に企画提案、実施してくれるので、組織としてよりサポートしていければと思います。
会社名 | ミツイワ株式会社 |
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設立 | 1964年 |
本社 | 東京都渋谷区渋谷3-15-6 |
事業所展開 | 30事業所 |
従業員数 | 814名(2020年4月1日現在) |
事業内容 |
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